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シェアリング(4) 

2009/03/24
Tue. 16:34

シェアリング(4)


桜の季節ですね。
爽やかなこの時期に、無駄に暗い話ですみません。

そろそろ終わりが見えて来た…かな?(あと2…、3回?)
忍さんにどうか幸せを…。


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シェアリング(4)



あの日から『違和感』が拭えない。

そこにあるのは、いつも通りの日常。
表面上は、何一つ変わらない俺達の関係。
冗談を言い合う。悪巧みもする。
お互いに信頼もしている。

それでも、確かに何かが違っていた。

「……あの…さ…。いや…、なんでもねえ…」
「…そうか」

今までなかった『遠慮』が顔を覗かせる。
時折、重苦しい『沈黙』がその場を覆う。

「……」
「……」

安らげない空間。
かつては聖域だった筈の二人の居場所。

「……隣、行ってくるわ」
「……ああ」

互いに踏み込めない領域の存在。
二人を分かつ、けして目には見えない薄いベール。
まるでそれは、簡単には越える事の出来ない大きな『境界線』みたいで。

ーーぱたん

ドアの閉まる音までが、いまや他人行儀の様だ。
途端に心に鋭い痛みが走る。
同時に壮絶な孤独感に襲われた。
辛い。痛い。
そして何より…、寂しい。

忍はそっと頭を振った。

「……っ」

降参してしまいたい。
何もかも投げ出して。
全て曝け出して。
本音を吐き出して。
依存していたい。
寄り添っていたい。
誰よりも近くに。

何よりも、光流の傍にーー。

「……みつ…、る…」

お前の幸せを蔑ろにして。
失うだろう家族の絆に目を瞑って。

「……駄目だ」

でもそれは、許されない。
それだけは、許せない。

「駄目なんだ…」

お前だけは不幸にしたくない。
誰よりも幸せになって欲しい。
だからどんなに辛くても堪えられる。
いいや、堪えてみせる。

不幸と孤独は俺一人が背負えばいい。
それで構わないから。

「……光流」


悲痛は叫びは、お前に届かない。
けして届いてはいけない。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「手塚!」
人も疎らな放課後。管理棟廊下。
図書室へと向かう忍の背後で、突然呼び声が上がった。
忍はその足を止め、ゆっくりと振り返る。
そこには、他クラスの同級生が一人佇んでいた。
「……?」
疑問顔で見つめれば、それに呼応する様に親しみやすい笑顔が覗く。同時に、緩やかな曲線を描く柔らかそうな髪の毛が、そっと揺れた。
それは忍に、ここにはいない筈の誰かを思い出させて。
「……っ」
動揺する心。
忍はそんな自分を戒める様に、拳を強く握った。
「あのさ、手塚。ちょっといいかな?」
「…ああ」
答えながらも、忍は自分の頭の中にある記憶回路を素早く起動する。
一番の理由。それは、いつもの冷静さを取り戻す為。ただそれだけ。

ーー3年F組 小池悟史 / ブラスバンド部 / 成績、中の下

顔は見知っていた。(全校生徒の顔は常に頭に入っている)
しかし面識はない。…筈である。
勿論、話した事もなかった。
それ故、忍は訝しげに伺う。
「…小池くん。 もしかして、…光流に何かあったのかい?」
「えっ!! 何で俺の名前!? それに理由っていうか…。その、何で光流の事まで!? 俺、まだ何も言ってないのに!?? ええっ!!??」
小池は絵に描いた様に、分かりやすい驚き方をしている。
腰をぬかすとまでは言わないが、明らかに仰天し、その顔は動揺を隠せない。
それを観察する様に眺め、忍は偽りの笑顔を張り付かせた。
「生憎、生徒の名前は全て記憶してるんだ。それに君は確かブラス部員だったよね? だからそうかなって…」
「…そっかー。噂には聞いてたけど…。手塚って、本当すげー……」
全く、どんな噂なんだか。
そのバツの悪そうな顔を見れば、ろくな噂ではない事は確かのようだ。
「ーーで、何かな?」
「あっ! そうそう。光流に頼まれてた部屋の事なんだけど」
「…部屋?」
「ああ、俺。親が不動産の仕事しててさ。それで光流に頼まれてたんだ。『家賃9万以下の部屋を探してくれ』って」
「……ああ」
自分でも驚く程、震えた声が廊下に響く。
動揺し、身体はそれ以上に震えそうになる。
「……」
忍は身体中にありったけの力を込めた。
自我を保つ様に。
冷静さを取り戻す為に。
しかし、次に飛び出した小池の言葉は、そんな忍の冷静さを奪い去るには十分だった。
「光流と同居するのって、手塚の事だろ?」
「それは……」

ーー家賃折半として9万以下な。俺、それ以上出せねえから

途端に蘇る言葉。
心を揺さぶる真剣な眼差し。
身体中を覆い尽くす幸福感。

忘れられない。
忘れる事なんて決して出来ない。
あの日の大切な約束。

『取りあえず、これからも宜しくな!』
『…ああ』
『何だよ、それだけかよ? もっとこう…、あるだろう?』
『何がだ?』
『…ああ…。もういいよ…。ちぇっーー…』
『…光流』
『ん。何だよ?』
『ーー幸せになろうな?』
『なっ!!!!!』
『何だ、どうした?』
『どうしたじゃねえ! お前なあ!!』
『赤いぞ、顔?』
『やかましい!!』

そうだ。頑張って幸せになろうと決めた。
俺達二人なら、きっとそうなれると思って。

未来への希望。
その先にある幸福。

この身で確かに感じた。
筈だったのに。
それなのにーー。

「……っ」
忍は負の感情に呑まれまいと、思わず唇を噛み締めた。

選んだのは自分。
確かに自分自身。
でもーー。

ーー一緒にいたい

心は素直に本音を晒す。
悲鳴をあげ続ける。
痛みを齎し続ける。

ーー傍にいたい

あの日から、自分の中の悲痛な声は止まる事はない。

ーー離れたくない

それでも堪え続ける。
心を誤摩化して。
感情を押し殺して。
全ての想いを打ち消して。

ーー光流が好きだ

この感情も。
光流へのこの想いさえも……。


「どうかしたか?」
思い悩み、口を閉ざした忍を伺う様に、小池が思わず訪ねる。その顔には明らかに不審色が見え隠れしていた。
「…いや、何でもないんだ」
即座に忍は使い慣れた偽りの笑顔でそれに答える。
まるで本当の感情を、全て嘘で覆い尽くす様に。

心の動きは誰にも見せない。
あいつ以外、見る事は許さない。

無理矢理ではあるが、冷静になった頭は目の前の彼に言うべき言葉を忍自身に投げ掛ける。

ーー俺と光流は同居しない。…だから、それを彼に告げなければ


『光流言ってました。ルームシェアなんて、忍さん以外とは絶対出来ないって』


あの子の言う事が本当ならば、きっと光流もその部屋で暮らす事は無いだろう。
それ以上に、二人で暮らす未来はもう来ない。
「……」

そう、約束は反故になったのだから。

頭では分かっていた。
しかしそれを口に出すのは、まるであの日の再現の様で、忍を躊躇させる。
だが、勿論このまま黙っている訳にはいかない。
忍は重い口を開き、切り出しかけた。が、それよりも早く小池は口を開いた。
「……あ」
「その部屋の事だけどさ!」
「えっ…、ーーああ」
言いかけた言葉は即座に掻き消され、忍はゆっくりとその口を噤んだ。
「それが本当に探すの大変だったんだぜー? だって今時『9万以下』だろ? 俺の親も、告げた時思わず頭抱え込んでさー」
「…そう」
忍もそれは思っていた。
今時9万以下の物件など無いだろうと。
相変わらず、お気楽にも程があると。

『探せばあるって!』
『残念だが、無理だろうな』
『無理なんかねえよ』
『は?』
『俺達二人揃えば無敵だろ?』
『お前、何言って…』
『だ・か・ら! 俺達二人には、無理なんて言葉はねえの』
『……』
『大丈夫、程なく部屋は見つかる』
『……』
『ーーだって、幸せになるんだろ?』


「でもさ。あれだけ喜ばれたら無理言った甲斐があったていうか…」
「えっ?」
「いや。俺さ。光流のあんなに嬉しそうな顔初めて見たから」
「……」
「子供みたいにハシャイで。顔中幸せで埋め尽くされてたよ」
「……」
「きっと手塚とシェアするの本当に楽しみにしてんだな」

ーーじゃあ…、これからも一人の友達として宜しく…な?

光流と暮らす事がなくなった忍は卒業後、親所有のマンションに住む事になるだろう。
駅から近くて、部屋は無駄に広くて、最新の設備が揃っているだろう高級マンションに。
きっとそこは、何の不自由もない。
だが同時に、その場所は安らぐ事など出来ないだろうと容易に想像出来る。

ーーあの家と変わらない。

目の裏で浮かぶ、重苦しい思いしかなかった自分の実家。
厳格な父、それに言いなりの母。
全てを蔑む、愚かな姉。
そして自分の存在を、きっとその誰よりも疎ましく思っていただろう…、兄。

ーーあそこには、自分の居場所なんてどこにもなかった。


『池田光流。よろしく!』

自分に居場所を与えてくれた人物。

『たまには本気出せよな?』

本当の自分に気付いてくれた友人。

『俺達二人揃えば無敵だろ?』

生まれて初めて失いたくないと思った存在。


「……っ」
そんな事を思えば、つい描けなかった光流との未来に想いを馳せてしまう。
未練の心はそう簡単には押さえられない。

きっとそこは交通の便は悪くて、信じられないくらい汚く狭い安いアパートで。
そこで二人は、時に笑い合い。くだらない事で喧嘩もして。
毎日がまるでお祭りの様に騒々しく、馬鹿みたいな日常が延々続くのだろう。
それでもそこにいるだろう自分は、間違いなく幸福だと断言出来てしまう。
これ以上ない程、心が満たされているだろうと。
分かっていた。
幸福は場所や設備じゃない。
誰と共にいるか。
誰が自分の隣りにいるかだと。

そう、光流がそこにいるだけで、きっとそれは…。

『ーーだって、幸せになるんだろ?』

俺は、いつの間にか幸せになっていたよ。

ーー失うのがこんなにも恐ろしくなる程に。


「ーーでさ。その他に更に条件があるんだもんな?」
「条件?」
思いもよらない小池の突然の言葉に、思わず忍の声が漏れた。
それをまるで追い風にする様に、小池はさらに続ける。
「だって光流の奴、ユニットバスは嫌なんだろ?」
「…えっ?」

まるで従う様に、記憶が蘇る。
それは呼吸する事と同じくらい容易くて。
同時に忍をどこまでも動揺させた。

『風呂とトイレは勿論、別だろうな?』
『ーーは?』
『狭い風呂は落ち着かない。ユニットバスはごめんだぞ』
『はあああ?? お前なあ!! …たくっ。何、贅沢な事言ってんだよ!』
『こんな事が贅沢か?』
『贅沢に決まってんだろう! そんなの却下、却下!!』

小池がいった言葉には語弊があった。
ユニットバスが嫌だと言ったのは、確かに自分だった。

「それから、図書館が近くに無いといけないんだよな?」
「それは…」

『図書館が近いと便利だな』
『お前は本当に読書好きだな』
『悪いか?』
『いえいえ。素敵なご趣味ですよ。貴方様にぴったりです』
『お前もたまには本を読めばいい。読書の素晴らしさが分かるかも知れないぞ?』
『…俺は週刊誌で十分です』

これも言ったのは自分。

「最後が…あれ? なんだっけ?」
「…まだ、何か?」
思わず声が震える。
心が震える。
「えーと…」
「……」
一方的に断ち切った自分が今更、捕まってはいけないのに。
光流の自分を思いやる優しさになどに。
たとえそれが嬉しくても。
幸せで仕方なくても。

捕まってはいけない。
捕われてはいけない。

もう決めた筈だ。
光流の為なんだからと。
でもーー。

「あっ!? そうそう!桜だ! 綺麗な桜が見える所だ!」
「……桜」

捕まってはいけないのに…。

『…綺麗だな』
『えっ? これ? 桜の事か?』
『ああ。こんな風に毎年桜を眺めれたら…。ちょっと嬉しいな』
『ーーお前、桜好きなのか?』
『そう…なのかも、知れないな』
『そうか…。忍、桜好きなんだ。へえー、そうか…』
『なんだ?』
『いや…。何かさ…』
『……?』
『桜が咲けば…。お前の…、お前の綺麗な笑顔見れるんだなー、…なんてさ。…思ったりして?』
『…バーカ』
『ああ、どうせね』

「ーーそういえば…。その桜の事だけど」
「……」
「桜にこだわらなきゃ、もう少し良い条件の所もあったんだけどな。光流が、『それじゃ駄目』だって言うからさ」
「…光流…が」
「桜にこだわる理由。手塚は知ってる訳?」
「…さあ」
「あいつの事だから、毎年近場で花見でもしたかったのかな?」
「……」
「ーーそれで、契約書を来週末くらいまでに欲しいらしくてさ」
「……」
「手塚?」
「ああ、ごめん…。契約書…」

言わなくてはいけない。
光流と暮らさない事。
その部屋に俺達二人は暮らさない事。

忍はゆっくり口を開きかけた。
瞬間、桜が咲き乱れる映像が頭に浮かぶ。

ーーお前、桜好きなのか?

「……っ」
突然の事に言葉が出ない。

舞い散る桜。
そこに佇む光流。

心ざわめく風景。
心攫われる美しい情景。

桜と光流が邪魔をする。
心の底にある本心がそれを邪魔をする。

「それじゃあ、宜しくな」
「ーーあ。……うん」

結局忍は事実を言い出す事のないまま、その場を立ち去る小池の背中をただ無言で見つめた。


ーーお前の綺麗な笑顔が見えるんだったら


蘇る言葉と桜が踊る。
舞い散る花びらが視界を覆い尽くす。
記憶の彼方にある美しい情景は、今の忍をどこまでも残酷に苦しめていた。

「光流。俺は…」


心がどうしようも無い程、かき乱される。
まるで風に攫われた、あの時の桜の様に。


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2017-10

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