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シェアリング(1) 

2008/09/15
Mon. 06:44

突然思いついた話。

またもや暗い。
構わない方だけどうぞ。
何回か続きます。



シェアリング (1)



「家賃折半として9万以下のとこな? 俺、それ以上出せねえから」

突然与えられた未来の約束。
あの日繋がれた左手を、まるで強い力で握り返す様なあいつのその言葉。
驚きと喜びが犇めき、一瞬平然顔と冷静な態度を装う事が出来なかった。
俺のそんな様子を目の当たりにしたあいつの顔は、この上なく嬉しそうで、幸せそうで。

俺達の歩む道は、少なくともあと4年間は同じだと。分かつ日はまだまだ先だと、単純に歓喜した。
障害など無いと。阻む物など有りはしないと。そう思っていた。
俺と光流が共に生きていく事。その事を憂う存在が居る事など、その時は思いもしなかったんだ。



秋の訪れが全ての始まりだった。



「今日、先帰ってて…」
放課後、A組の教室に訪れた光流は、帰り支度をすっかり整えた忍にため息をつきつつ、そう呟いた。
「どうしたんだ?」
生徒会も退官して半年、いつも帰宅が遅かった忍も受験生よろしく、授業が終われば直帰している毎日。約束などしては居ないが光流と忍は当然の様に、毎日一緒に帰宅していた。
「ブラスの卒業生追出され会ってのが、来月あってさ。そんで今日練習…。はあ…」
深いため息一つ。更にもう一つ。
そんな光流の憂い顔を他所に、忍は笑顔を見せた。
「受験生だというのにご苦労だな」
「…言うなよ」
そう言って忍を軽く睨みつける光流。そんな光流を見つめ、忍は更に微笑んだ。
「分かった。じゃあ、先帰ってる」
忍は席から立ち上がって鞄を掴み、光流の肩をぽんと叩いて、そのまま教室ドアへと颯爽と歩みを進めた。
そんな忍に光流が焦った様に声を掛ける。
「あっ、忍…」
言い淀む声。躊躇する声色。
忍は自分の口元が緩むのを押さえながら、ゆっくりと振り返り、光流へと向き合った。
「……その…」
「晩飯はお前が帰ってくるまで、待っててやるよ」
一瞬、その言葉を理解していない光流の驚き顔と目が合う。それを笑顔で忍は見つめた。
次の瞬間、光流の口元に溢れんばかりの笑みが浮かぶ。弾けんばかりの笑顔がそこを彩るのに、時間はかからなかった。
「サンキュ!!」
「どういたしまして」
そして光流は忍の後を追い掛け、二人は並んで教室を後にした。そしてそのまま昇降口へと進み、階段を降りる忍を光流は手を振り、笑顔で見送った。光流は忍が見えなくなるのを確認し、「さてと」と一言呟きながら音楽室へと歩みを進めた。
その顔には、この上ない程の笑みを浮かべて。





校舎の外へと歩み出れば、外の気温はまだまだ夏のそれと変わらない。
湿度をたっぷりと含んだ風が忍の髪を乱す。
「まだまだ夏だな」
そうは言っても、確実に季節が変わり始めているのも感じた。
あれだけうるさかった蝉の声が形を潜め、今は秋の虫の声が騒がしい。
痛い程だった日差しも幾分かの柔らかさを持ち始めている。
気づかないうちに月日は確実に進んでいる。形有る物は確実に変わっているのだ。

しかし変わらないものもある。
例えば自分たちの関係。そして二人の歩む道筋。
分かつと思っていた道。
しかし、別れの時はまだ先なのだ。
あの日何かに祈り、願った雨やどりはまだ続く。

そう思うと、忍の口元に自然と笑みが浮かんでいた。
堪らなく幸福だった。心が喜びで満ち溢れていた。

そう、その時までは。



忍は歩みを進め、正門を潜った。そして校外へと歩み出れば、直後に見覚えのある人物を認めた。
「あっ…、忍さん。こんにちは」
「正くん」
そこには光流の弟、正十が立っていた。
学校帰りなのだろう。制服姿がそれを物語っている。
「どうしたんだい?」
「その…」
戸惑いを見せる正十に忍は歩み寄った。
「光流ならまだ校内に居るよ。呼んで来ようか?」
そう笑顔で話しかけた。が、正十は小さく首を振る。
「いえ…。今日は忍さんにお話があって…」
「俺に?」
「はい…」
忍は少し考える様な仕草をしつつも、正十のその言葉を了承した。
「分かった…。少し行った所にファミレスがあるんだ。そこに行こう」
「…はい」
答えつつも、明らかに沈んでいる正十を忍は盗み見た。
その様子から、きっと話しは光流の事だろうと思った。
何故なら光流と正人が去年の年末辺りから上手く行っていない事を聞いていたのだ。
理由を詳しく聞いた訳ではなかったが、何となく分かってはいた。

それはきっと『家族の在り方』の双方の考え違いだ。
お互いを大切にすればする程、考え方、捉え方が少しでも違えば、その歪みは大きくなる。池田の家族はそのいい例と言えた。

大切だからこそ、お互い自立する事が必要だとする光流。
大切だからこそ、お互い依存し合う事が必要だとする正十。

『家族は何よりも大切なんだ。でも俺は養子だから。大切だからこそ、その事を忘れちゃいけないんだよ』

ある時光流はそう言っていた。
悟った様に、そして同時に何かを諦めた様に。

それに対して自分がした事は『そうか』と肯定する事でも『それは違う』と否定する事でもなく。ただ側に寄り添って光流の話しを聞く事だけだった。


簡単に言えば何も出来なかったのだ。


歯痒かった。
何も言えない自分が。
何をしていいのか分からない自分に、どうしようもない程嫌気がさした。

そして何よりも辛く、悲しかった。
光流の内側に踏み込めないちっぽけな自分に。
光流の心に壁を感じ、立ち尽くしてしまう弱い自分の心に。


光流は間違いなく自分の支えだ。
それなのに自分は、こんなにも無力で、何一つできない。


自分への嫌悪感と焦燥感が心を締め上げた。


しかしそんな忍に対して光流は『有り難うな』と何故か笑顔を向けた。
何が『有り難う』なのか分からない。自分は何一つ出来なかったのだから。
だからその言葉通りにとる事はどうしても出来なかった。

光流は自分に対して、ある種の諦めを持ったのではないかとその時思ったのだ。
その時からそんな思いが頭を離れない。向けられたあの笑顔を忘れられない。


光流に対して、何も出来ない無力な自分。
それは忍にとって、何よりも忌むべき存在になった。


だからこそ、今回は光流の為に何かしたかった。
もう何も出来ない奴だなんて思われたくない。諦められたくない。
それが忍を突き動かす一番の理由だった。




「お二人様ですか?」
夕飯にはまだ早い時刻なので、ファミレスは閑散としていた。
営業用スマイルが張り付いたウエイトレスに、窓際の奥まった禁煙席に二人は案内された。
案内された席に座り、おざなりにメニューを開く。そしてそれを軽く見渡して、忍は注文をした。
「アイスコーヒーを…、正くんはどうする?」
「俺も同じ物で」
「アイスコーヒーをお二つですね?」
店内マニュアルの笑顔と動作で、ウエイトレスはメニューを繰り返した。
「少々お待ち下さい」
そう答え、ウエイトレスが足早に立ち去るのを確認し、忍は正十に切り出した。
「それで、俺に話しって、何かな?」
話しが光流の事だとは分かってはいたが、正十が口を開かないと始まらない。忍は笑顔で正十を促した。
途端に目に入る正十の苦い顔。
瞬間、あるものを思い出される切っ掛けとなる。
それは光流の顔だった。
最近の光流は、正十や家族の話しになると、似合わない苦い顔をしていた。正直言って、とても辛そうで見てられなかった。
もう、あんな顔をさせたくなかった。早くいざこざや誤解を取り除いてやりたい。
自分に出来る事など知れてはいるだろう。もしかしたら何も出来ないかも知れない。が、何かをしたかった。
光流の為に自分が出来る事を何とか模索し、努力したかった。
今度こそはと変に力が入る。
しかし忍のそんな願いは、最悪な形で叶えられる事となる。


正面に座る正十は黙り込んで、苦い顔をしていた。
とても辛そうなその顔は、血が繋がっている訳でもないのに、光流のそれによく似ていた。

ーー意外と似てるんだな

忍はそれを見つめていた。
正十が話しを切り出すのを、促すのでも答えを急ぐのでもなく、ただ静かに。
ゆっくりとした時間が二人の間で流れる。店内で流れる有線の曲だけがその時間を支配していた。


テーブルの上には、いつの間にか運ばれたアイスコーヒーが二つ並ぶ。
飲まれる事も無く、その中を浮かぶ氷が溶ける事だけを許されていた。
そして、幾分時が過ぎただろうか、まるで何かを決意した様に正十が忍に向き合い、その口を開いた。
その言葉は忍を驚かせる一言だった。
いや、驚かせるという表現は適切ではない。
それは。


「…光流と同居するの止めてもらえませんか?」


正十が放ったその一言に忍は微動だに出来なかった。
まるで崖から突き落とされた様な衝撃が走り、これ以上無い程の虚無感と絶望感が心を占めた。

どうしていいか分からない。

一番大切な物を奪われる感覚。
時がその場で止まり、まるで心が壊れてしまいそうだった。



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2017-06

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