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シェアリング(2) 

2008/09/19
Fri. 18:46

シェアリング(2)

読んで頂けると嬉しいです。でも暗いです。(相変わらず)


シェアリング(2)



思えば自分が忍に対して友達以上の何かを感じ始めたのは、あの時が初めだった様に思う。
家族について詳しく話をした時。付け加えて言うならば、自分が『養子』だと言う事を改めて告げた時だ。
あの時忍は、誰もが『養子』である自分に対して行う態度を見せなかった。いわゆる『可哀想な子』だと蔑み、哀れ見る事を一切しなかったのだ。

これまで自分が養子だと知った時の反応は皆、同じだった。
まるで腫れ物に触るように恭しく、これ以上ない位に優しくしてくれた。
「何か出来る事ない?」
「何でも言ってね!」
と、頼んでもいないのに、哀れみ一杯の優しい笑顔を見せてくれる。

何げに家族の話でもしたら、それはもう目も当てられない。
「偉かったね? 辛かったよね?」
「何でも言っていいんだよ? 君の気持ちは分かっているんだから」
優しさの押し売り。労る心と美しい言葉の数々で自分を包もうとする。縛ろうとする。
そう、まるで自分は悲劇の主人公の様に扱われていたのだ。
『養子』であるが故に、不幸である事が当たり前の様に。言い換えれば、それ以外は許されないかの様に。

常に自分は『特別』として認識されていた。
その事について辟易していた時も、反発心故に荒れた時代も確かに有ったが、過ぎ行く時の流れと本来の諦めのいい性格のおかげで、その事について酷く悩む事はなくなっていた。もはやとるに足らない事だと思っていた。が、それは間違いだと気づかされる。

手塚忍。
彼との出会いが自分の『その心』を強く認識させる切っ掛けとなったのだ。
本当は誰かに認めて欲しかったのだと言う事を。自分は特別な存在なんかではなく、人並みの幸せを感じる事が出来ている事。そして回りが思う程、不幸ではないのだと言う事を。
何よりも一番認識した事それは、自分が特別扱いされるせいで『本当の孤独』を抱えてしまっているという事。

家族の事で本音を言おうと愚痴を溢そうと、忍の反応は他の誰とも違っていて、隣りで寄り添い、ただ黙って話しを聞いてくれた。
そう、全てを。心の中で長年燻っていただけで、もはや意味にさえもなっていない言葉の羅列さえも。
そして一頻り話終えると、何時もの様に静かに微笑んで。そして。
「喉が渇いただろ?」
と、温かいコーヒーを一杯、差し出してくれるのだ。
それを受け取れば、温かくて。心がくすぐったくて。
その優しさと心遣いがどうしようもない程、心に染みて。幸せが溶け込んで来て。

忍の前でだけはどんなに本音を晒そうと、自分は『可哀想な子』ではなく『普通の人間』でいられる。『特別な事』ではなく『ありふれた事』だとそう思える。だから素直に気持ちを吐露する事が出来る。心が軽くなる。柵から抜けて、誰よりも自由になれるのだ。
側にいれば心地よくて、それでいて誰より気も抜けない。
そんな関係。何よりも代え難いその存在。

だから卒業する事くらいで、繋いだこの左手を離す気なんて更々なかった。今以上に強く握り締めて引き寄せたい。抱き寄せたい。離したくなかった。
この3年の間に自分達は、見ず知らずの他人から自他共に認める親友にまでなれた。だからこれから過ごす4年間で、もっと掛け替えのない物になればいい。
きっと自分と忍ならなれる筈だと、光流はそう信じている。
同居の話しをしたのはまるで偶然の産物のようだが、本当は必然的な事だった。本音を言えば、いつ言い出そうかと随分と長い間悩んでいた。忍に拒絶でもされたらと思えば、二の足を踏んでしまい、中々言いだす事が出来なかったのだ。
だから忍が卒業後の話を切り出して来た時、心中は喜びで一杯で、平然顔を装うのが大変だった。
あの日のやり取りを思いだせば、随分と月日が経った今でもついにやけてしまう。お手軽に幸せになれてしまえた。

離したくない。そうはっきり思った。忍を離したくない。
誰にも渡したくない。忍だけは誰にも渡せない。
失いたくない。この思いだけは失えない。忍が好きだと確信している。

そう、忍にどうしようもない程、恋をしているのだ。


そんな風に物思いに耽る光流は、ついにやけて練習に中々集中出来ない。それでなくても下手な演奏が、拍車をかけて酷くなる。そして本日何度目か分からない元部長のお小言を、そのお得意の愛想笑いで誤摩化していた。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「えっ…」
一瞬何を言われたのかと、疑問の言葉が上がる。
本音はそうではない。そうであって欲しくないと、まるでどこかで心底祈る様にその言葉がついて出たのだ。
本当であっては欲しくないと、本音である筈がなかろうと。
しかし現実は覆る事もなく、自分の目の前で何処までも辛そうにしている正十は、今一度先程の言葉を紡いだ。
忍が聞きたくなかった、その言葉を。

「お願いします。光流との同居をどうか止めて下さい…」

どうしてこんな事を聞かせるのだと、自分の中で誰かが囁く。しかし同時に、言われても仕方が無い事だとも思っていた。
光流と正十との関係。二人の在り方。池田という家族の意義と捉え方。
正十が光流に常日頃望んでいる事を思えば、こんな事を言いだすのも理解は出来る。が、『理解』する事が出来ても、簡単に『納得』し、『了承』する事が出来るかと言えば、それは難しいとしか言いようが無くて。
「突然こんな事言い出して、本当にすみません」
「……いや」
カランとアイスコーヒーの氷が溶ける音が聞こえる。しかしそれは、どこか遠くの効果音の様で。現実味の無いそれは、忍の視線を引きつける。まるで地球の引力の様に。
「先日、光流から…。その…、卒業したら忍さんと同居するって…、聞いて…」
「……うん」
「それで…、こんな事お願いするの…。本当はいけない事って、分かっているんです…。でも…、それでも…。…俺、光流には一刻も早く家に帰って来て欲しくて…」
光流を大事に思っている正十。そんな正十を誰よりも大切に思っている光流。
二人の『互いを思い合う心』をこれ以上無い程感じて、忍の心はどうしようもない位にかき乱されていた。
入り込めない世界を感じる。壊せない、近づく事さえも咎められるそんな光景が広がりを見せる。
「家族がこんな風に離れて暮らすなんて、どう考えてもおかしいと思うんです…」
光流に常日頃感じる『壁』の存在。間違いなくこれは…。『家族の絆』
家族ではない自分は、決して入り込めない、理解する事が出来ない。いや、理解する事など始めから無理なのだ。
尊いそれを、部外者である自分が触れる事は、けして許されないのだから。
「光流言ってました。ルームシェアなんて、忍さん以外とは絶対出来ないって。俺もそう思います。…あいつ、ああ見えて以外に神経質だし、人に入り込ませないとこあるし」
正十の言葉が忍の頭を静かに通り過ぎて行く。
「だから忍さんが一緒に住めないって言ってくれるとあいつ…。一人暮らしじゃ家賃が高くて、自活生活なんて出来ないだろうし。家を出て行く事なんてしないと思うし…」
押し黙っている忍を気に留める事も無く、正十は心内を吐き続けていた。
「もしこのまま貴方と同居なんて始めたら…。あいつもう家には帰って来ない…絶対に…」
「……」
何も言えない。何を言って良いのかも分からない。
自分がどこまで踏み込んでいいのかも。いけないのかも。
これではあの時と変わらない。何一つ言えなかったあの時と。
そんな自分に辟易していた筈なのに。忌むべき物だった筈なのに。
「お願いします。忍さん!」
光流と出会い、自分は救われた。あの地獄の様な日々から救い出してくれた。
そしてそれは、これから先も変わらないと教えてくれた。光流自身の笑顔と言葉で。
何よりも代え難い光流の存在。そして決して壊したくない自分の居場所。
光流の隣りというその『場所』。

「俺…光流と離れたくないんです」

ーー君が俺にそれを言うのか。

「光流がおれたち家族から…。俺から離れて行く事が我慢出来ないんです」

ーー俺は…。俺だって…、こんなにも。

「光流は俺の家族なんです」

ーー無くしたくない。絶対失いたくはない。光流と離れたくない。

「あいつの帰る場所はあの家だけなんです!!」

ーー光流がいる所が俺の居場所。その場所が無くなってしまえば…俺は。

「帰ってくる事が光流の幸せなんです!!」

ーー幸せについて、あの時生まれて初めて考えた。でもその象徴である筈のアイツが居なくなってしまえば、それは…、何の意味も持たなくなってしまう。


『お前が不幸になる必要なんか、無いんだから』


ーー光流…。


カラン。
氷が音を立てる。そしてその音に導かれる様に、蘇る光流の言葉。


『家族は何よりも大切なんだ。でも俺は養子だから。大切だからこそ、その事を忘れちゃいけないんだよ』

押し黙っていた忍が何かを決意した様に、正十へと向き合う。その瞳を見つめれば、大切な物を小さな手で必死で守ろうとしている子供の様だった。そんな正十の想いをこの身で感じて、思わず逸らしそうになる視線。しかし、そんな自分に叱咤する様に、更に見つめた。
「…君は、光流の意思を汲み取ってるのか?」
「えっ?」
「光流の意見は聞かないのか?」
「それは…」
「あいつの意見を聞いてやる事こそが…本当の家族なんじゃないのかい?」
忍のその言葉に、弾かれた様に正十が顔を上げる。テーブルの上におかれていた両手は小さく震えていた。
「貴方に…、他人の貴方にあいつの何が分かるんですか…」
「………っ」
呟く様に零された正十のその一言に、忍はもはや何一つ言い返す事も、身動き一つする事も出来なくなった。
正十のその一言が忍から全てを奪う。
確たる自信もプライドも。
何よりもゆるぎない物である筈の光流との友情も、あの日交わされた約束さえも。
「……すみません」
「………いや」
逃げる様に窓の外を見れば、いつもと変わらぬ風景が広がっている。
それでも確実に何かは変わっている。

「光流の為なんです。家族と共に居る事が光流の為なんです」

光流と自分の在り方。それは形を変えざるしかないのか。
こんな時になってやっと失う物の大きさを身を以て知る。
忍は震えだす身体を正十に気づかれない為に、目の前のアイスコーヒーに手を伸ばした。





どうやって寮まで帰って来たのか覚えていない。
ただ覚えているのは必死に頭を下げ続ける正十の悲痛な面持ちとその言葉。

ーー光流の為なんです。

光流の為。
これでもかと心を揺さぶるその言葉。
そして思い知らされたあの一言。

ーー他人の貴方にあいつの何が分かるんですか…。

光流の為に何かしたいと思っていた。
今度こそはと。
しかしそれはただの傲慢だったと思い知らされた。
「俺と光流は…、所詮他人」
入り込んではいけない場所。踏み込めない世界。
それに気付かされた時、今の自分がどうすれば良いのかをそっと考える。
光流の為と必死に思い込もうと試みる。
そして忍は何かを決意したように窓の外を眺めた。
秋風がカーテンを静かに揺らす。夏が消え去っていく。
自分の手から大切なものが消えていく消失感を、忍は必死に堪えていた。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「おーい、光流!」
「ん?」
ブラスの練習がやっと終わり、やれやれと帰り支度をしていた光流は自分の名を呼ぶ部活の仲間に振り返った。
「どうした?」
「こーれ。お前に頼まれてたやつ。ほれ」
そう言ってA3サイズの茶封筒を渡された。
一瞬、?顔でそれを受け取った光流は、次の瞬間、驚き顔全開で口を開いた。
「マジで? サンキュー!!」
思わず最大級の笑顔が溢れる。
「かなり、苦労したんだからな。奢れよ!」
「いやー、待つべき物は不動産会社、社長御子息様だな!マジで感謝してます!!本当にありがとうな!」
光流はそう言って茶封筒を抱きしめた。

頼んでいたもの。それは『家賃折半として9万以下の部屋』。
無理だと言うそれを、頼み込んで頼み込んで何とか探してもらったのだ。

どうしても失いたくなかった同じ道。
どんな事をしても離したくなかった忍。

この中には未来が詰まっている。
忍と歩む大事な未来が。




身体中に満ち溢れる幸せからか、足取りが異様な程軽い。が、逸る気持ちが先走る。
「うー。早く見せてぇー!!」
近い筈の寮までの道のりが、いつのよりも遠く長く感じられた。
「忍。どんな顔するかな」
これを見せた時の忍の様子を考えるだけで思わず笑みが溢れてしまう。
早く見せたい。喜ばせたい。

何よりも幸せそうな忍の笑顔が見たかった。大好きなあの微笑みを。



☆ ☆ ☆ ☆ ☆



「忍!!ただいまーー!!」
叫びながら、けたたましく開け放たれる寮のドア。責任者が居れば『壊れる!!』と怒られるかも知れない。
光流は幸せ気分全開で部屋に飛び込むと、何故か神妙な顔付で自分を振り返り、窓際で佇む忍の姿が一番に目に入った。
「…忍、どうした? 何かあったのか?」
「光流…」
声にも覇気がない。それ以上に元気が無い。
身体中を占めていた幸せが、途端に心配へとすり替わる。
そして光流は本能に導かれる様に、早足で忍の側へと近づいていた。
顔を覗き見れば、忍にしては珍しい程、苦々しい顔を隠す事さえもしていない。
具合でも悪いのだろうかと心底心配で伺う。
「具合でも…」
「光流…、お前とは一緒に住めなくなった」
「……えっ?」
忍のその一言は、まるで光流から全ての感情を奪った様だった。
そんな光流に忍はもう一度告げた。別離の言葉を。
「…お前とは住めないんだ」
立ち尽くし黙り込んだ二人は、カーテンが風に揺れるのをずいぶんと長い間眺めていた。


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